ウィークリー瞑想

上沼昌雄(神学博士)のキリスト教神学エッセー

Thursday, June 14, 2007

「照らされた闇」

 先週末にポートランドの日本人教会(横井宏明牧師)の聖書塾での講
義に行ってきました。自分を振り返り、人生を振り返ることができるよ
うなものということで、「魂の暗夜―心の闇を見つめ、闇のなかで神に
出会うために」というテーマで学びをいたしました。今回はすでに塾を
卒業され教会で奉仕をされているご夫妻で、ポートランドから東に1時
間ほどドライブをしたところで果樹園を持たれているお宅での授業とな
りました。なし畑を見ながら20名の受講生とともに「闇」について学
びました。

 このテーマは4月の日本での奉仕でもいくつかのセミナーでも取り上
げました。闇について語ることができるのだろうかと不安もありまし
た。しかし取り上げ、語ることができることで、すでに闇が光の下に出
されていることが分かります。このテーマで最初のセミナーをした山形
で、「闇のイメージ」について分かち合いました。「闇」と聞いて自分
のなかに持っているイメージです。ある男性は親に叱られて夜、家の外
の木に縛られて、怖くて泣いていたイメージを語ってくれました。ある
夫人は弟さんの発病のことを語ってくれました。

 聖書塾ではすでに何度か授業を持たしていただきました。学びをして
奉仕に就かれる方たちです。自分の闇を見つめ、闇の底に降りていくこ
とで、人の闇を取り扱う務めをいただいています。そしてなりよりプロ
テスタント福音派ではあまり取り上げてことがないので、どこかで一度
は自分の闇にしっかりと向き合うことができればと言う思いをいただい
てこのテーマを選びました。

 その思いを伝えて、ひとりひとりの「闇のイメージ」について聞いて
みました。戸惑いがありながら自分の心の深くを見つめていることが分
かります。結婚生活の失敗、小さいときに神社のほこらのなかで寝かさ
れたこと、朝鮮戦争の時に見た死体の山、アメリカに渡ったときの将来
の不安、瀬戸内海の海の底の暗やみ、父親の酒乱のこと、満州から引き
上げてくるときに何日も閉じこめられた貨物車のなか、父が亡くなった
とき、骨と皮のような姿で生まれた双子の妹こと、中学の時に自分の部
屋から一歩も出なかったときのこと、高校の時に盲腸で死にそうになっ
たときのこと、仕事で鬱になったときのこと、母が病気であったことで
小学3年生の時の記憶がないこと、大学4年生の時に人生の目標が分か
らなくて雨戸を閉めて1ヶ月間閉じこもったときのこと、宇宙で右も左
も上も下も分からなくてひとりでいるイメージ、父親の暴力。

 出てきた内容はまさに暗いことで、どこにも救いのないことです。思
い出したくもないことです。じっと闇の底にしまっておきたいことで
す。そんなことはなかったかのように忘れておきたいことです。でも
言ってくださっている受講生の顔は輝いているのです。また互いの闇の
イメージを聞きながら、お互いをしっかりと受け止めているのです。そ
の場が明るいのです。光に照らされているのです。

 闇は闇なので言葉で言い表すことができません。それでもいつも付き
まとっています。前に進みたいのですがいつも闇のなかに引き戻されて
しまいます。何かの拍子に闇の底に落とされてしまいます。いまそれを
イメージででも言い表すことで光をいただくことができます。光を届け
ることができます。光が心の深くに入っているのです。闇が光に照らさ
れているのです。

 秋田で4名の牧師と一緒に闇について思い巡らしました。そのひとり
の方が、闇を取り上げる意味を次のようにまとめてくれました。こちら
の言い切れないところを明確にしてくれました。

 「上沼さんは繰り返し『闇に入っていくことができるのは、光の存在
を信じるからだ。』『光が差し込んでくるから、闇の底を見つめること
ができる。』と語ります。神から遠く隔たった闇について語っていなが
ら、実はまさに今ここにおられる神、光の神について語っているので
す。『光がある。』との主張は、楽観的にすら思えるほどの強い確信と
して述べられています。そして、それは逆の表現を採るならば、『闇を
直視できないのは、光の存在を信じていないから』と言えるはずです。

 私は、これが今日の教会に対するひとつの挑戦だと感じています。福
音が人々を根底から変革する力になっていない。福音理解が表面的で、
心の深い所まで届いていない。『古い人』が全く変えられていない。そ
の理由は自分の内にある闇の存在を認めないことにあるのではないで
しょうか。そして、闇の存在を認めることができないのは、光の存在、
神の恵みのわざを充分に受け止めていないことを示している、言い換え
れば、結局のところ『信仰がない』ということに行き着いてしまうよう
に思うのです。」

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